
うちの仏壇はやたらデカい。花立も大きいから、供える花の調達に日々苦労する。母は長らく生花にこだわっていたが、今年の暑さでは花が三日と保たず、娘夫婦の家計を案じてか「造花を買おう」と提案してくれた。早速、2つの花立に造花を挿して、仏壇の花問題はとりあえず収束した。
さて、我が家の裏手にカンちゃんという人の家がある。野菜作りの名人だったが、高齢で引退して、畑は息子が継いでいるらしい。引越して挨拶に行った時は、母と同年代のミヤちゃんと呼ばれる奥さんが迎えてくれ、庭先に咲いている花を「いつでも切っていいよ」と言ってくれた。
ある朝、裏庭で洗濯物を干していると「奥さん、花切りにおいで」と声がする。ミヤちゃんだ。
「ありがとうございます」と返事はしたものの戸惑った。都会では物をあげる側が持って来る。取りに来いと言われたことはない。しかも他人の庭の花を切るのは、私にはハードルが高い。
しかし、二度も誘われて断るのも失礼だ。私は花切狭を握って、カンちゃんちへ向かった。ミヤちゃんは手押し車に掴まって、私を待っていた。自立歩行が難しいのだ。私が躊躇していると、花を切ったほうが横芽が出るからと促してくれた。安心して何本か花を切り、調子に乗って「あの黄色い花も切っていいですか」と尋ねると「女郎花はダメ。花が散って仏壇が汚れるから。墓に供えるならいいよ」と。
この辺りの女性にとって「花は仏壇に供えてナンボ」なのだ。母がミヤちゃんの庭を羨ましがるのも納得だ。丁重にお礼を言って花を持ち帰り、花立の造花の隙間に挿した。この家に来て、一番豪華な供花になった。
私は荒れ地と化した裏庭を耕して、花を植えることにした。母に「切り花専用の庭を、カッティングガーデンって呼ぶらしいよ」と教えると、洒落臭いという顔をして「仏様に供えられれば何でもいい」と言う。つれないものだ…笑。

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