城戸あづさ 田舎暮らし日々発見の記録

生来の出不精である。それなのにタウン情報誌の出版社に就職して、昼夜を問わず取材に出かける日々を送った。かなりの荒療治だったが、おかげで、世の中には直に見聞しないと得られない情報があることと、現場でしか芽生えない感情があることを知った。足を運ぶことは大事なのだ。
しかしながら。人間の性分というものは簡単には変わらない。コロナ禍以降はほぼ在宅で仕事ができるし、田舎に引越してからは庭仕事も楽しくなったから、ますます家を出たくない。
出不精の反対を「出忠実(でまめ)」と呼ぶらしい。私が今まで世の流れに付いて来られたのは、この出忠実気質の人たちが周囲にいたおかげである。各地の競泳大会に遠征できたのも、福岡で行われた世界大会に出られたのも、出忠実な水泳仲間がリードしてくれたからだ。一生ものの思い出ができて、今は感謝しかない。
行橋に戻って2カ月が過ぎてから、幼なじみの3人にだけ知らせた。皆喜んで、山奥の古民家カフェで歓迎会を開いてくれた。驚くことに3人揃って出忠実だった。「次はどこ行く?」のお誘いに、正直に「一回パス」と返信してみたが、今月は海辺のカフェに行くこととなった。
幼い頃に見た漂流ゴミだらけの浜辺は、白く美しい砂浜へと変貌を遂げていた。今ではビーチバレーの公式大会も開催されるらしい。地域おこしに奮闘したのだろう。海が望める小さなカフェで、アラ還女子の情報交換会。笑い話の中に、高齢化が進む故郷での暮らし方を教わった。夏の終わりの海と友人たちの会話に癒やされて、結局は良い休日になった。
さてここに、出忠実のラスボスのような人物がいる。伴侶である。閉幕前の大阪万博へ行こうと、パビリオンの予約から簡易椅子まで用意周到に準備して、出発日を待っている。その隣りで私は持病を発症し、「行けば楽しいに決まってるんだから」と自分に言い聞かせながら、この原稿を書いている。
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