引越して初めての年越しだ。古い日本家屋の大掃除は、85歳の母まで総動員して一日がかりだった…正確には一日で諦めた。注連飾りは玄関、神棚、床の間、仏壇、井戸…と12カ所。鏡餅は神社に供える一升餅と、家に供える餅が12重ね。3人で食べる餅より、供える餅のほうが多い。
しかし、注連飾りは全て叔父の手作りだ。叔父は一つ一つ藁を編んで、丁寧に仕上げてくれる。鏡餅だって、親戚が集まって餅をつく。マンション暮らしの頃に比べて、正月準備の手間は10倍かかるが、コストは10分の1以下になった。

今年は母に代わって、神社の餅つきにも出た。元旦に神社で配られる紅白の餅を、地区の有志で作るのだ。神事場で餅米を蒸し、ついた餅を叔母が切り、3~4人の女性で丸める。皆、手際が良い。作業に慣れてくると、ポツポツと会話が始まったが、地元の話が多くて私は入れない。
昼になると、神社の門松立てと餅つきの参加者へ賄いを出す。つきたての餅を一口大にちぎって大根おろしをまぶす、酢餅である。熱々の餅の塊を水に放り込む。叔母が小さくちぎりながら「手伝って」と私を呼ぶ。慌てて水に手を入れるが、餅は滑るし伸びるし…皆に「そんなに大きいと、年寄が喉に詰めちゃうよ」と大笑いされた。おかげで顔は覚えられた気がする。

年が明けても気忙しさは続いた。今年は畑の野菜で正月料理を作り、帰省した息子に栄養をつけさせた。気がつけば、もう松の内が明ける。
花畑の草を抜きながら、年越しを振り返る。常々、自分には足りないものが多いと感じるが、こうして周りの人に、地区の行事や花の育て方や美味しい料理など教わっていけば、そのうち年相応の人間になれるのではないか、と思えてきた。
ふと目を上げると、フェンス越しに年配の女性が微笑んでいる。イケノウエさんだ。数年前のお祭りでご一緒したことがある。「帰ってきたとは聞いてたけど、花づくりが好きなんだってね」…情報が早い。近寄って挨拶すると「これ、私が編んだのよ」と頭を指さす。お洒落なニット帽だ。この人も得意なことが多そうだ。「上手ですね!」と驚くと、「そのうち教えてやるよ」と言い残して帰っていった。このままいくと、還暦までに私には何人の師匠ができるだろう…。



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