城戸あづさ 田舎暮らし日々発見の記録
三浦しをんの『舟を編む』を気取ってタイトルを付けてみたが、何の比喩でもない。実際に軒を造った話だ。ただ、この地方では軒を「げ」と呼ぶことは初めて知った。
近所に住む叔母が、1キロ程離れた息子の家に引越すことになった。叔母は85歳。息子との同居は望ましいが、倉庫付きの広い一軒家から今どきの戸建に移るため、荷物が収まらない。そこで叔母はDIYの達人である自分の弟に、息子の家の外壁に軒を伸ばして、物置を造ってくれと頼んだのだ。かくして、叔父を棟梁に私たち夫婦も軒づくりに参加することとなった。


軒を造る区画の四隅に棒を立て、管の付いたバケツに水を入れて中央に置き、管の水位が同じ所で棒に印を入れる。印を糸で繋げば、区画の水平がわかる。糸の高さに合わせて、束石をセメントで固めれば土台が出来上がる。作業は地味だが、古びたバケツ1個で建物の基礎を定めるスマートさに、初日からハマってしまった。

鋸や重い道具が使えない私は測量係になった。柱や床の寸法を測り、角材や板に線を引いて2人に渡すと、鋸で切ってくれる。寸法を間違えると材料を買い直さないといけないから、慎重を期した。しかし、工程が進むにつれ、建物全体に微妙な歪みが生じる。歪みに合わせて寸法を測り、凹凸に切り込み線を引く作業は、どんどん難しくなっていった。ある日、脳がバグって何度もやり直した。

私が謝ると、叔父は笑って「これは仕事じゃない。作業自体を楽しむんだ」と教えてくれた。この地域の人たちは、餅つきの合間に牡蠣を焼いたり、伐採中の切株でイスを造ってみたり…確かに楽しんでいる。 私たちも叔父夫婦の差し入れで、作業合間の休憩を楽しんだ。




作業日数7日、期間は約1カ月。極寒の中、仕事をやりくりして3人で頑張った。田舎に来て私が手に入れたアイテムは、高枝切り鋏、水平器と金尺、電動ドリル、左官ゴテとなった。これらの道具を使って我が家でやってみたいことが、ムクムクと頭に浮かんでくる。
まだまだ未熟だが、自分のスキルとセンスで、生活を変えていけるのは面白い。「豊かな暮らし」と呼べるほど格好良くもお洒落でもないから、「愉快な暮らし」とでも言っておこう。

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