
「やりかけだけが、人生だ。」――私の好きな糸井重里さんの言葉だ。田舎に引越して1年が経ち、この言葉の意味を実感する。
この地区では5月の連休に神幸祭という祭りが催される。氏神様の神社を出発した2基の神輿が地区の中を練り歩き、各所で神主が祝詞を上げて、神楽が奉納される。祭りは2日間行われるが、2日目は獅子も家々を回り、氏子の頭を噛んで厄を払う。
我が家は先祖代々、この神社の宮柱で、叔父は祭りの責任者を務め、叔父の孫は神楽を舞う。今年は夫が神輿の先頭でお汐を撒き、息子は帰省して神輿を引き、私は公民館で接待役…と、我が家のゴールデンウィークは、神幸祭一色で慌ただしく過ぎていった。
5月初めは夏野菜の植え付けの時期でもある。片付けて広くなった庭が草地ではもったいないから、叔父と2人で家庭菜園を拡げることにした。耕運機で耕して肥料を入れ、草除けの黒いビニールシートを被せる。苗を植えて支柱を立て、毎日たっぷり水をやる。叔父と2人汗だくになって植えた苗は、今のところスクスク育っている。
祭りと畑仕事で5月2週目まで日程が詰まったが、私にはもう一つやらねばならないことがあった。毎年5月の第2日曜は競泳日本マスターズの日なのである。今年もエントリーしたからには練習しなければならない。祭りの準備をしては泳ぎ、畑に苗を植えては泳ぎ…いや、もうやるだけやったやろ。と半ば開き直って試合に望んだら、結果は手術後ベストタイムだった。一日の活動量が増えたから、基礎体力も付いたのだろう。
一日の終わりに翌日の〝やること〟リストを書くのが日課だが、田舎に越してから項目が2倍に増えた。必然的に一日では全部を終えられず、〝やりかけ〟のまま眠りにつく。すると都会にいた頃の朝の目眩が治り、ムクッと起きて、急ぎ足で洗面所に向かうようになった。昨日のやりかけを、今日こそ終わらせるためだ。そうして、全部クリアした日にはすこぶる気分が良いけれど、不思議なもので、またすぐ〝やること〟リストができる。だから〝やりかけ〟がまた生まれる。
やりかけだらけで今月59歳になった。ふと「これが人生の醍醐味なのかも」と思ったりした。



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