ひと摘みの塩を借りにゆく

このコーナーでは、株式会社ラクパのライター・城戸あづさが、心に留めておきたい言葉とのエピソードを綴ります。

季節のない街

ひと摘みの塩を借りにゆく

山本周五郎

最近までハマっていたドラマ『季節のない街』。山本周五郎の同名小説を宮藤官九郎が現代風に脚色し、俳優陣の演技も素晴らしく…勢いで原作まで読みました。

原作は貧しい長屋に暮らす人々の話です。年代も場所も異なりますが、作者が実際に見て聞いて触れた人々だそう。ですから、大半は愚かで哀れな結末ですが、なぜか彼らが愛おしくなるのです。山本周五郎も登場人物に〈最も人間らしい人間性を感ずる〉理由は〈虚飾で人の眼をくらましたり自分を偽ったりする暇も金もない、ありのままの自分をさらけだしている〉と言っています。

冒頭の言葉は、作者が小説のあとがきに書いたものです。彼らにとって、ひと摘まみの塩を借りにゆく行為は、本当に必要な場合の他に、親近感を強めるため、相手に優越感を与えるため、あるいはケチなため…なのだとか。潔く温かく、なんと豊かな人との交わり方でしょう。

私は以前インスタグラムをしていましたが、半年ほどで投稿をやめました。自分の日常を記録しようと始めたのに、気づけば「何か自慢できることはないか」と毎日ネタ探し。他の投稿を見ても「ここに本音はあるのかな」と思うようになりました。そんな疑念に、この小説は答えをくれました。

「恥ずかしいことを隠しちゃ、魅力が無くなるよ。自慢ばかりじゃ、面白くないよ。もっと上質なコミュニケーションの取り方があるよ」と教えられた気がします。(あづさ)

この記事を書いた人
Azusa

株式会社ラクパ専属ライター。タウン誌≪シティ情報ふくおか≫編集者として、特集のほか、地元のテレビ番組・お笑い・祭りのページなどを担当。地域色豊かな誌面作りを目指す。2006年、ニュースレター作成代行「ラクパ」のライターとして活動開始。クライアントの個性を活かし、顧客づくりのための原稿を執筆中。趣味は競泳、専門種目はクロール。マスターズ大会での自己ベスト更新を夢見て、仕事と家事の合間にトレーニングに励む毎日。

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