このコーナーでは、株式会社ラクパのライター・城戸あづさが、心に留めておきたい言葉とのエピソードを綴ります。
ひと摘みの塩を借りにゆく
山本周五郎
最近までハマっていたドラマ『季節のない街』。山本周五郎の同名小説を宮藤官九郎が現代風に脚色し、俳優陣の演技も素晴らしく…勢いで原作まで読みました。
原作は貧しい長屋に暮らす人々の話です。年代も場所も異なりますが、作者が実際に見て聞いて触れた人々だそう。ですから、大半は愚かで哀れな結末ですが、なぜか彼らが愛おしくなるのです。山本周五郎も登場人物に〈最も人間らしい人間性を感ずる〉理由は〈虚飾で人の眼をくらましたり自分を偽ったりする暇も金もない、ありのままの自分をさらけだしている〉と言っています。
冒頭の言葉は、作者が小説のあとがきに書いたものです。彼らにとって、ひと摘まみの塩を借りにゆく行為は、本当に必要な場合の他に、親近感を強めるため、相手に優越感を与えるため、あるいはケチなため…なのだとか。潔く温かく、なんと豊かな人との交わり方でしょう。
私は以前インスタグラムをしていましたが、半年ほどで投稿をやめました。自分の日常を記録しようと始めたのに、気づけば「何か自慢できることはないか」と毎日ネタ探し。他の投稿を見ても「ここに本音はあるのかな」と思うようになりました。そんな疑念に、この小説は答えをくれました。
「恥ずかしいことを隠しちゃ、魅力が無くなるよ。自慢ばかりじゃ、面白くないよ。もっと上質なコミュニケーションの取り方があるよ」と教えられた気がします。(あづさ)
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